いまさら聞けない!DX担当者が物流DXについて知っておくべきこと。

DXを推進する社会の動きや報道などを受けて、「うちもDXに取り組もう!」となっている物流企業は多いと思います。

その中で社内DXの担当者、経営者の方はこのような疑問を抱いてないでしょうか?


「DXに取り組むべきなのはわかっている」
「何から取り組むべきなのか分からない…」
「うちの会社には必要ないんじゃないか…?」

DXの抽象的なイメージはつかめていても、具体的な内容の理解がないとアクションが起こせません。

ツールを導入するにも「何のために?」が明確でないと、意思決定に迷いが出てしまいます。

そこで今回は、物流・運送業界のDX導入事例を交え、基本的な概念やDX導入のメリットについて解説していきます。

記事を読み終えた頃にはDXの基本概念を理解し、自社のDX推進やツール導入へのスムーズなステップへ迷わず進んでいけるでしょう。

目次

物流業界のDXとは?

物流業においてのDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術やAIなどの先端技術を活用し、今までの物流業務・プロセスを元から変えていく取り組みのこと。

デジタルデータを活用することによって企業は以下のような業務効率化が可能になります。

  • 配送ルートの自動最適化
  • リアルタイムでの情報共有
  • 在庫管理の自動化
  • デジタルピッキングによる省人化

相対的に業務で必要な人件費など、コストの削減効果も期待できます。

ただ物流業界でのDXは、単にシステム・ITツールの導入を意味するわけではありません。

業務フローの再設計、企業文化の変革、さらには従業員の意識改革をも含む広範なプロセスです。DXにより企業は新たなビジネスモデルを作り出し、競争優位性や自社顧客の満足度向上につながる事業活動をつづけるための大きな改革のための概念です。

そもそもDXとは?

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

少し硬い表現なので、わかりやすく段階的に表してみます。

STEP
企業は従来のやり方を大きく変え
STEP
商品やサービスの提供価値を新しく作り出す
STEP
組織の業務プロセスを変え
STEP
従業員のデジタルスキル習得など企業全体の文化を変えて
STEP
そのなかで生まれたビジネスモデルを顧客に提供する
STEP
結果的に顧客に選ばれる企業になり利益が増えていく

このような流れを作り出すための一連の企業活動が、DXの本質です。
企業において、根本的な経営改革を意味しています。

物流業界のDX成功事例

株式会社ヒサノ

ヒサノは、従来、各事業所ごとに紙で管理していた帳票をクラウドベースのシステムに一元化し、情報共有と配車の迅速化を図りました。このシステムにより、担当者のブラックボックス化していた配車のノウハウが標準化され、業務の属人化が解消されました。また、出入庫管理をクラウド上で行える倉庫管理システムを構築し、ウェアラブル端末を導入して現場の効率をさらに向上させています。

アスクル

アスクルはAIを用いた需要予測システムを導入し、在庫管理の精度を大幅に向上させています。これにより、在庫不足や過剰在庫のリスクを低減し、運営コストの削減を実現しました。

この導入によって、アスクルは過剰な在庫を抱えるリスクを減少させ、必要な時に必要なだけの商品を確保できるようになりました。また、在庫管理が効率化されることで、運営コストの削減や顧客満足度の向上にも繋がっています。

インテンツ

インテンツ株式会社は、紙媒体で130近く作成されていた配送スタッフ用マニュアルを、電子マニュアルツール「Teachme Biz」を導入してデジタル化しました。このシステムにより、マニュアルの改訂や配布が迅速化され、スタッフへの作業指示が統一されるようになりました。結果として、マニュアル作成・更新の効率化や、スタッフ研修時間の短縮が実現し、業務浸透の徹底や離職率の改善も見られるようになりました。また、紙の印刷・配布の手間が削減されるなど、業務負担の軽減が図られています。

DXのよくある勘違い:ツール導入で終わりではない

DXには「デジタイゼーション」、「デジタライゼーション」、「デジタルトランスフォーメーション」の3つのステップがあります。誤解しやすいポイントを踏まえて解説していきます。

「デジタル化」=DXではない

デジタル化=DXと混同され認識されやすいのですが、厳密には間違った解釈であると言えます。

DXには3つのステップがありそれぞれ異なった定義を持ちます。
以下の図がその定義を解説したものです。

デジタイゼーション

アナログ情報や手作業で行われていた業務をデータ化することです。紙の伝票を電子化したり、在庫管理を手書きからバーコードやRFIDで行うようにするなど、おもに現場業務で活用しているデータのデジタル化を進めます。

デジタライゼーション

現在の業務プロセスを効率化することを意味します。従来の配送ルートの手動計算をAIを活用した最適化に切り替えることで、業務のスピードや正確性を向上させる取り組みがこれに該当します。

デジタルトランスフォーメーション

デジタル技術を駆使して、業務プロセスやビジネスモデル全体そのものを変革することを指します。顧客のニーズに応じた新たな配送サービスの開発や、リアルタイムでの需要予測に基づく在庫管理の導入などが、DXの具体例となります。

この3つを段階的に改革することにより、最終的にDXが完了するということを意味します。

個別業務においてのデータ化・デジタル化ではなく、業務全体での最適化を意識してシステム導入・ツール選定を行う必要があります。

なぜ今、物流業界にDXが求められているのか:業界構造が問題となっている

昨今のDX推進の背景には、「働き方改革法案」や「高齢化による人手不足」が大きく影響しています。

それぞれ解説していきます。

大きな転換点は「働き方改革法案」

DXの必要性が強く認識された背景には、「働き方改革」による残業時間の上限規制があります。

これまで長時間労働で売上を確保していた運送業界にとって、この規制は大きな転換点となりました。今後は少ない人員で同等の売上を確保しなければ、事業の持続が難しくなります。

このような状況下で、省人化や生産性向上が不可欠です。その解決策として、デジタル化を進めた先にあるDXが強く求められるようになったのです。

(“参考資料3 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)”)

主力ドライバーの高齢化による人手不足

ベテランドライバーに頼っていた従来の業務は今後限界を迎える可能性があります。

考えられる要因は3つあり以下に示しています。

  • 若年層の求人の低下
  • 業界の年齢層が他業種より高い
  • ノウハウを引き継ぐ人材不足

(“トラック運送業の現状等について”)

 (“トラック運送業の現状等について”)

法改正に対応しなければならない状況下において、業界全体として根本的な改革が急務となっているのです。

こうした状況に対応するために、業務を効率化し、少ない人数で事業運営を実現できるDXは不可欠となっています。

職人芸に頼っていたノウハウのデータ化により次世代へのスムーズなバトンタッチを可能とします。

物流業務におけるDXの具体的なメリット

業務効率化の向上

具体例: AIを用いた配送ルートの自動最適化により、最短経路を算出して移動時間を短縮します。より多くの配送が効率よく行えるようになります。

労働力不足の解消

具体例: 自動倉庫システムを導入し、商品のピッキングや在庫管理をロボットで行います。人手に頼る業務を減らし、少人数でも大量の作業が可能になります。

コスト削減

具体例: 在庫管理の自動化により、過剰在庫や欠品を防止し、無駄な在庫コストを削減します。

労働環境の改善

具体例: 配送業務において、DXを導入して負担の大きい作業を自動化します。ドライバーの長時間労働を削減することにより従業員の働きやすさ向上につながります。離職率の低下も期待できます。

ヒューマンエラーの低減

具体例: 倉庫内作業において、バーコードやRFIDを使用した自動認識システムを導入することで、誤出荷や誤配送といったヒューマンエラーを減少させます。

新しいビジネスモデルの構築

具体例: Eコマースの成長に伴い、DXを活用してリアルタイムでの配送状況の把握や顧客への情報提供を行い、新たな商品・ビジネスを提供することで自社独自のサービス提供を可能にします。

DX導入における課題とその解決策:ノウハウファーストから脱却する

私の現場経験から一番の課題になっていると感じた点は3つあります。

  • 現状で問題なく回っている、という現場の意識
  • 独自ルール・属人化されている業務の多さ
  • DXに詳しい人材の不足・従業員のリテラシー不足

ここではその課題と解決策を解説していきます。

現状で問題なく回っている、という現場の意識

課題

長年の経験や勘が重要視される場面が多いのが現状。完全に機械やAIに依存することは難しいという声が強く根付いています。このため、DXを導入しようとしても、現場スタッフからの理解を得ることが難しく、抵抗感が生まれることがあります。

解決策

現場に詳しい人材からデジタル化のメリットを現場に伝えてもらうのが最適です。
まず、現場から発信するリーダーを育てていくことが必要です。

独自ルール・属人化されている業務の多さ

課題

各拠点が独自の業務ルールを持ち、それに基づいて業務を行っている場合、統一的なデジタルシステムを導入することが困難です。現場が従来の方法で円滑に運営されている場合、デジタル化の必要性が感じられないこともあります。このような現場では、DXのメリットが理解されにくく、導入が進まないことがあります。

解決策

現場に対して、デジタルシステムがもたらす具体的なメリットを示します。現場のスタッフが自分たちの業務改善につながると感じられるようにすることが大切です。現場の意見を取り入れ段階的に導入を進めるのも一つの方法です。
これにより抵抗感を減らせるでしょう。

DXに詳しい人材の不足・従業員のリテラシー不足

課題

新しい技術を導入するには専門的な知識が必要ですが、企業ではそのような人材が限られており、導入や運用がスムーズに進まないケースが見られます。


解決策

DXに詳しい人材の育成を行い、スムーズな導入を支援することが求められます。
DXにくわしいコンサルタントを外部から招くケースも考えられます。

まとめ:DXを進めるにはまずDXを知ろう

今回はDXを始める前に知っておくべき、基本的な知識を解説してきました。もう一度要点をまとめておきます。

  • 物流業界のDXとは?
  • そもそもDXとは?
  • 物流業界のDX成功事例
  • DXのよくある勘違い
  • なぜ今、物流業界にDXが求められているのか
  • 物流業務におけるDXの具体的なメリット
  • DX導入における課題とその解決策

以上のような内容でした。

「DXは魔法ではない」きわめて現実的で、地道な作業ではないかと私は考えます。

今回の記事がみなさんのDX推進を正しい方向に向かわせる、コンパスのようなものになればうれしい限りです。
困難な壁に当たってもくじけずに、物流業界をリードしていただけることを願っています!

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